『神道の源流「縄文」からのメッセージ』出版に寄せて 石田秀輝さんから推薦文をいただきました

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『神道の源流「縄文(JOMON)」からのメッセージ』の出版に際し、著者である伊勢神宮禰宜・吉川竜実さんとご縁のある数多くの方からの推薦文をいただくことができました。

今回は、その中から、東北大学名誉教授で、「持続可能な社会モデルを」科学と工学の視点から模索されている石田秀輝さんからのお声を紹介させていただきます。

石田秀輝さんから推薦文をいただきました!

今、文明は大きな変曲点にあると言っても過言ではないだろう。地球環境の劣化と経済システムがともに限界状態にあり、現在の延長では2030年頃には文明崩壊の引き金に手を掛ける可能性が高くなっているからだ。

地球環境の最大の問題は生物多様性の劣化、次に地球温暖化に代表される気候変動、そして大気中にも滞留していることが明らかになったマイクロ・プラスチック(残留性汚染物質を高濃度で吸着)で、2030年頃までにはこれらの問題に対する解を明らかにしなくてはならない。

重要なことは、対症療法的にこれらの問題に向き合うのではなく、その本質にしっかり正対することが重要である。本質とは何か、それは人間活動の肥大化がこれらの問題を起こしているという事実である。2020年12月、人間がつくった人工物が1兆1000億トンになり生物総重量を超えた。この100年間を見れば、人工物量は32倍になり、人口の4.9倍をはるかに超えた。全世界の人々が毎週自分の体重以上の人工物をつくり続けていることになり、このままでは2040年頃には2兆トンを超える人工物が生み出されることになる。生物総重量の1兆1000億トンは、主に太陽のエネルギーだけで完全な循環をしていて一切ゴミを出さないが、我々は人口増加速度の6倍を超える勢いで最終的にはゴミになる人工物をつくり続けているのだ。そして、その人工物は自然を破壊することによって生まれており、それを煽っているのが今の経済システムなのだ。これこそが地球環境問題の本質なのである。

エコロジカル・フットプリント(EF)という物差しがある。地球の環境容量をあらわしている指標で、人間活動が環境に与える負荷を、資源の再生産および廃棄物の浄化に必要な面積として示した数値である。地球の総生物生産力は122億gha(グローバル・ヘクタール/haと同義)で世界の人口が80億人であるから1.5gha/人となる。一方、人間のEFは206 億ghaで2.6gha/人となる。すなわち、1.5ghs/人を自然から頂きながら2.6gha/人の消費をしていることになる。言い換えれば、地球が1.7個なくては現在の生活が維持できないことになる(日本と同様な暮らしなら2.9個必要)。1つしかないはずの地球で、何故1.7個分の消費が出来るのか、それは資本を食い続けているからだ。地球という資本に毎年1.5gha/人の利子が付くが、それでは足らず資本を食って2.7gha/人の消費を維持しているのだ。当然、自然はどんどん破壊され利子も資本も劣化するが、それには見向きもせず、更なる消費を煽っているのが現状で、文明崩壊という限界がすぐそこにあることはご理解いただけるだろう。

同様に、地球全体の生態系収支が赤字になっている状態を「オーバーシュート」と呼ぶが、アース・地球オーバーシュート・デーは、人間のEFが、その年に地球が再生できる量(バイオキャパシティ)を超えた日を示す。2022年のアース・オーバーシュート・デーは7月28日だった。つまり、人間はこの地球がもたらしてくれる自然資源を、地球の供給量を超えて、8カ月程度で使い切ってしまったことになる。

2022年12月19日、カナダのモントリオールで、153の締約国・地域などが参加した国連生物多様性条約の第15回締約国会議(CBD-COP15)第2部が閉幕し、やっと「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」として採択された。この枠組みの最も重要な概念は「人類は、人・地球・経済・そして地球上のすべての生命の持続可能な未来のために、生物多様性を2030年までに回復軌道に乗せる(ネイチャー・ポジティブ)という重大な責任を負っている」ということである。まさに一つの地球で暮らすという方向に向かうことがこれからの大きな流れになることが世界の合意となったのである。それは地球の総生物生産力(自然の修復能力)以内で暮らすしか方法はないということであり、それには、人間のEFをどうやって減らすのか、そしてどうやって総生物生産力を上げる(自然の修復)のかを考えなくてはならない。すでに、わが国では、「2030年までに陸域・海域それぞれの30%を保護・保全する(30by30)」ことを世界に約束し、これに同じく世界に約束した「カーボン・ニュートラル」、「みどりの食糧システム戦略」を組み合わせれば、自然に寄り添ったより低環境負荷で快適な暮らしや、新しいビジネスが見えて来るはずだ。そんな視点を、多くの方々に持って頂きたいと心から思っている。

縄文時代は、人類史の中でも日本にしか見られない、比類のない時代である。1万年以上にわたって戦争の無い平和で、文化芸術が栄え、あらゆる面で豊かな時代が世界で唯一築かれた。その生き方の原理は自然のエコ・システムへの同化である。自然の循環に自らの生命を同化させる生き方である。それは自然に生かされていることを知り、自然を活かし、自然を往なすということでもある。すでに述べたように、今、我々は文明の大きな変曲点に居る、そして、この危機を乗り越える術はただ一つしかない、自然を回復させ、自然と同化することなのだ。我が国の先達は、世界で唯一同化によって豊かで平和な文明を創出したのだ。そして、そのDNAは、間違いなく我々の生命の根底に眠っているのだと思っている。それを覚醒させ、世界を牽引する使命が我々にはあるのだ、我々しか持っていない未来を創るDNAなのだから…。

吉川先生の御本を読み返すたびに、そのことを強く思うのである。

石田さん、素敵な推薦文をありがとうございました!

石田秀輝さんプロフィール

地球村研究室代表、一般社団法人サステイナブル経営推進機構理事長、東北大学名誉教授、星槎大学特任教授、 酔庵塾塾長

★近著は以下: 『生命文明の時代』 Next Publishing Authors Press (2019) 『ありがたーい生き物たち』リベラル社(2019) 『Lifestyle and Nature』 Pan Stanford Pub.(2019) 『すごい技を持つ生物図鑑』文研出版」(2019) 『正解の無い難問を解決に導く バックキャスト思考』 ワニプラス (2018) 『光り輝く未来が、沖永良部島にあった!』 ワニブックス(2015)

★ サステイナブル経営推進機構(SuMPOサンポ) https://sumpo.or.jp/
酔庵塾HP http://suianjuku.com
地球村研究室ブログ https://ameblo.jp/emileishida
すごい自然ショールーム http://nature-sr.com/

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