「縄文意識」とは、己が生業に全力で勤しみ、無我や没自然の境地となって真の自己を解き放ち、あるがままの姿で自由に生き切っていく意識のこと。=0意識(私=0=∞)=ゼロ・ポイント・フィールド。ただしコトの成就や調和は神や仏、自然や宇宙に任せる。
吉川さん:前回は『甲州三嶌越』で表現された絵画内容の姿形を、神々が降臨する聖なる樹木と石で構成される祭祀施設「神籬磐境」のある斎庭の形態と重ね合わせて見てきました。そこで再度、遠景の富士を巨大な「岩石の塊」と捉えて、近景の巨木と繰り広げられる壮烈な激戦に注目したいと思います。
まずはこの絵画に秘められた真のエネルギーの凄さがよりリアルに実感できるものと思いますので、岡本太郎が時空間を超越して垣間見た次の「白昼夢」をご紹介しておきましょう。
古い庭園、その美しい均衡の中に石や木が静まっているのを眺めるとき、ふと胸をつかれる。ひっそりと、永遠に動かない石、そして和やかに枝葉をのばした樹木。ほとんど謙虚といえる、静寂な気配である。しかしその底から心身をすくい上げるような、ほとんど恐怖に近いセンセーションが迫ってくるのだ。
突然にょきにょきと巨人の手のように樹木がのび生えだし、巨石が飛び、うちくだけ、散るー木と石の果し合いがじりじりと進行するのだ。息がつまり、気が顛倒するほど壮絶な光景である。
たしかに今まで目の前にあった景色は平和であり、ものさびたたたずまいだったが、私の直観は瞬間に数百年の流れをさかのぼり、それらが経てきた歴史を、ちょうど微速度撮影のイメージのように私の心の中に現実的に再生しはじめるのである。
石と木の残酷な対立。かすかな芽が、ぐーっとのび上り、押し出してくる。あなたは植物の芽の拡大写真を見たことがあるだろうか。そのいやったらしさ。不気味な迫力。「植物的」なんて、大嘘だ。
はじめは何百貫とあるような巨石に押しひしがれ、ねじまげられながら、柔らかいものの信じ難い強さで、やがてそれをごろりと覆えし、押しのける。あちらにもこちらにも、そのようななまなましい傍若無人の生命が躍り出ている。
石は噛み、のしかかる。植物は生成しつつ石をくつがえし続ける。この無機と有機、死と生との矛盾する二つの世界が、慰撫と恐怖、破壊と充実、均衡と滅亡の、なまなましく戦慄的なドラマだ。
庭園はその凝縮された舞台である。ここに静かだが、しかし執拗な永遠の戦いがくりひろげられる。実際、日本庭園ほど石と木との対立を感じさせるところはない。
だが庭園の石・樹木は、まず人間によって構成された。そこには人間の手の跡がある。というよりも人間のなまなましい生命の一片にふれるのだ。ここには初めがあり、終りがある。いわばライトを浴びた舞台のように、そこに運命が読みとれる。つまりドラマがあるのだ。しかし │ 白昼夢はさめる。
( 略 )
だから日本庭園は伝統に従って、あくまでも静的な形式美として見るのが一応正しいのかもしれない。しかし私の興味はまったくそんなところにはない。。私がひかれるのは、そこに「人間が介在するー自然の戦い」の凝縮が見てとれるからなのである。
人間と自然、このアンチテーゼのからみあい、激突する力の均衡のドラマこそ、われわれの生命力に直接訴えてくる芸術の本質にかかわってくるからなのだ。
(岡本太郎著「石と木における人間のドラマ」
(岡本太郎の宇宙Ⅲ『伝統との対決』所収))
(引用文中の波線は編集部による)
(次号に続く)

対比も描かれています。
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吉川 竜実さんプロフィール
神宮参事・博士(文学)
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
平成2(1990)年、即位礼および大嘗祭後の天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、平成5(1993)年第61回式年遷宮、平成25(2013)年第62回式年遷宮、平成31(2019)年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、令和元(2019)年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。平成11(1999)年第1回・平成28(2016)年第3回神宮大宮司学術奨励賞、平成29(2017)年、神道文化賞受賞。
通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。
知っているようで知らないことが多い「神道」。『神道ことはじめ』は、そのイロハを、吉川竜実さんが、気さくで楽しく慈しみ深いお人柄そのままに、わかりやすく教えてくれます。読むだけで天とつながる軸が通るような、地に足をつけて生きる力と指針を与えてくれる慈愛に満ちた一冊。あらためて、神道が日本人の日常を形作っていることを実感させてくれるでしょう。
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