令和5年11月4日、香川県善通寺市「総本山善通寺」にて行われた
弘法大師空海 御誕生1250年祭【奉祝コンサート空海】
音霊と祈りが織りなす一夜限りの舞台の様子をお届けするレポート、後編です!
(前編はこちら↓)
みずみずしく躍動する音霊に感動
開演早々、岡野弘幹さんが奏でる音霊は、別次元に移ったように幻想の世界へ。その胸の高鳴りのなか、喜多郎さんの演奏も始まります!
喜多郎さんは、平和へ向けた祈りを音楽で表現され、世界で最も高い評価を受けている日本人アーティストの一人として知られています。代表作には、NHK制作のドキュメンタリー番組「シルクロード」のテーマ曲や、日本の心と世界の心の融合を試みたアルバム「古事記」などがあり、CD「空海の旅」では、空海の精神世界を音楽で表現されてきました。
そんな喜多郎さんは、岡野さんからこのコンサートの企画を真っ先に相談されたときも、快諾されたそうです。
喜多郎さんの「シルクロード」や「キャラバンサライ」などの曲は、おそらく皆さんも何度か聞いたことがあると思います。
取材スタッフも幾度となく耳にした曲ではありましたが、善通寺というこの空間で、岡野さんのネイティブアメリカン・フルートとともに音が奏でられた瞬間、光が全身を駆け抜けたような感覚がしました。
その時に思ったのです。
「音は、生きていて、躍動しているんだ」と。
ありありとそう感じました。
音はまるで大きな生命体のように、舞台から飛び出して、伸びやかに飛んでいったと思ったら、妖艶に、しなやかに、ダイナミックに、聴衆の上や境内を自由自在に飛び回るかのよう。
そのあまりの躍動感に、みずみずしさに、「命が生きている」ことの美しさに、涙がドバーッと溢れてきました。
耳で聴くというだけではなく、目で観ているようでもあり、肌で感じているようでもあり、心で懐かしんでいるような、全身の細胞が呼応しているというのでしょうか。細胞たちが悦び、ざわめき、音と戯れ、踊っているようで、全身が波打っているような感覚でした。
自分の意思では止めらないので、もうあきらめて、身を委ねるしかない、そんな心地よさがあり、“音霊”とは何かを改めて考えさせられる体験でした。
祈りを込めた「慈悲」
そして、音霊が飛び交う中で、小林芙蓉さんの揮毫が行われました。
小林芙蓉さんは、書画を通じて「和の心」を伝える活動において、伊勢神宮や天河大辨財天社、高野山金剛峯寺など全国の神社仏閣にて祈りの書を揮毫・奉納するほか、イスラエルや中国など世界各地で書画展を開催し、 ローマ法王にも書を献上。長年にわたる国際親善活動が評価され、2015年中国政府から日本人でただ1人「国際優秀文化交流賞」を受賞、韓国政府からも日韓親善の感謝碑を授与、2018年には、弘法大師空海修行の地である中国・西安の大興善寺にて外国人初の書画展を開催されています。
芙蓉さんの揮毫は、世界中の聖地で集めた水で擦った墨を使い、世界の平和を祈りながら天地人の気を集め、紙の上に降ろすそうです。その書は、水のエネルギーに満ちた癒しの書、光の書といわれています。
芙蓉さんは「どう書こうという意識はない」とおっしゃいます。
そんな芙蓉さんが揮毫された言葉は、「慈悲」でした。
慈悲は、仏様が「一人残らず苦しみを抜いて、すべての人に幸せになってもらいたい」と願われる心だといわれています。
音霊はノンストップで飛び交い、無我夢中で、浸っていました。
祈りに満ち満ちた空間。
すべてが、一体になっていたと思います。
祈るということ、一人ひとりの祈りが集まることがどれほど大きな祈りのエネルギーとなるのかを、体験させていただいた気がしました。
心をひとつにした「般若心経」
気がつけば、演奏は終わりを迎えていました。
圧巻の舞台に、時間感覚が失われたかと思うほど濃密なひとときでした。
そして、この日のクライマックスには、祈りのなかで「般若心経」が一斉に唱えられました。
有名な一文「色即是空 空即是色」を聴き、「すべての物事は不変の実体を持つものではない」といった教えがあることを思い出しました。私たちの日常も、日々移り行き、変わっていきますね。
そんな中で、この体験を通してこの空間で祈りを共有した方々はもちろん、時空を超えてこの記事を読んでくださっている皆さまと繋がれていることを、とても有難いことに感じます。
この世界は日々いろいろなことが起きていますが、不変だからこそ、二度とない一瞬一瞬を大切に生きていきたいと思いました。
そして、岡野さんや喜多郎さん、小林芙蓉さんたちが芸術を通して祈ることと同じように、誰もが日常の中で千差万別の在り方、方法で祈りを表現することができるのだと思いました。
仕事も、挨拶も、料理も、自分をケアすることも、祈りを込めれば日々の行いは平和をつくっていくエネルギーになっていくのかもしれない、そんなふうに思うのでした。
このコンサートは、岡野さんのお声がけから始まり、2023年の猛烈な酷暑の中、実現のために皆さまが尽力してくださったそうです。
このような機会をいただいたこと、そしてこうして皆さまと共有できることに感謝し、嬉しく思います。
皆さま、いつもありがとうございます。感謝を込めて。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
(文責:重清京子)
岡野さんのCD『天河』(画像をクリックしてください)