【コラム】良質な睡眠で良質な人生を!!

コラム

睡眠は、勝手に訪れるものだと、多くの人はそこに意識を向けませんが、近年、「良質な睡眠を迎えるために、起きているときの行動を選択する」という考え方が注目されはじめています。
美や健康だけでなく、人生を左右するほど重要な「睡眠」とはどのようなものなのか。
睡眠と健康の関係について30年以上研究されている、大阪府立大学名誉教授・清水教永医学博士にお話を伺いました。

大阪府立大学名誉教授
清水 教永しみず のりなが 医学博士

日本放射線ホルミシス協会理事。健康医科学や予防医学の視点から医療関係、スポーツ関係、衣料関係、飲料水関係などの企業顧問として健康・美容・睡眠に関わる製品の安全性と有用性を検証、独創的な視点から企業との連携によって製品開発を行なっている。医学博士(和歌山県立医科大学)。大阪府立大学名誉教授。一般社団法人生活健康学研究所理事長。

活発に動いている睡眠時のからだ

人間の毎日は、覚醒と睡眠が表裏一体で成り立っています。しかし「健康長寿」をまっとうするのにどちらが重要か、と問われれば、大きなウエイトを占めるのは「寝ているとき」ということになるでしょう。
近年、「睡眠行動」という言葉も生まれたように、眠っているとき、人間の体内ではさまざまな活動が行われています。

四足歩行動物に比べ、二足歩行の人間は起きているだけでからだに負担がかかります。
横になって重力の影響を解除し、骨髄の造血作用を働かせる。自律神経においては副交感神経が優位となり、ウイルスの侵入を防ぐ免疫機能が高まるほか、成長ホルモンも最も多く分泌される。
1日起きていることで傷ついた多くの細胞の修復、ホルモンやタンパク質の生成も主に睡眠時に行われ、脂肪も分解されます。

また、“人間の疲労のほとんどは「脳」の疲労である”ということもわかってきました。
起きている時間に比例して脳内で睡眠促進物質(サイトカインや神経ペプチドなど)が生産され、増えすぎると脳細胞が破壊されてしまいます。
その生産を停止させ、脳の中の疲労回復因子を働かせて分解するなど、脳には睡眠という毎日の定期的メンテナンスが必要なのです。

良質な睡眠は感性や愛の力も育む

生理学的に睡眠は最低5時間以上、平均的に6時間取れていればよいのですが、問題なのはその「質」です。
良質な睡眠の条件としては、まず前半のノンレム睡眠の深さがあります。そして、浅いレム睡眠と、深いノンレム睡眠が規則的に現れるかどうか。これがない場合、朝起きたときの不快感、会社に行きたくないとか、日中眠くなるなどの現象が起きて、その人の睡眠の質は良いとは言えません。

レム睡眠時には、昼間に入ってきた情報(文字や言葉だけでなく光・音)が処理されています。
日中に脳で処理した情報を、「3年分を1秒で再生するような高速」で整理していくのです。
このときに無意識の中で、日中に五感で感じた情報がすべて、意識の領域を超えて夢として現れ、私たちの感性を豊かにしてくれます。

たとえばお茶の入った茶碗を見て、美しいなと感じるところから、目に見えないところ、茶碗の底や、「自分はなぜ美しいと思うのだろう」、「このお茶は、誰がどんなふうに淹れてくれたのだろう」というところにまで興味、関心、好奇心が芽生えていく。
愛の反対は無関心ですから、こうした感覚は「愛」とも言い換えられます。
つまり睡眠をしっかり取ることは、愛の力も深く大きく育ててくれる。 寝る子は育つといいますが、肉体だけでなく、こうしたことも含めて育まれる、という意味があるのかもしれません。

この重要なレム睡眠は、年齢を重ねたり、人とのコミュニケーションが極端に少なかったり、同じような情報の中でマンネリ化した生活を送っていることでも、減少してしまいます。脳は記憶することよりも、整理された引き出しから必要な情報を取り出すことの方を困難とします。
睡眠の質の低下で、整理されていない情報が増えていくことで、人の名前などが「思い出せない」ということが起きて、これが若年性認知症の原因ともなります。
人やものに関心を持つ、愛や情緒の面にまで支障が現れかねないのです。

睡眠マネジメントで人生の「質」を高める

では睡眠の質を高めるには、日中にどんな行動が必要なのか。
脳は全面的に使う必要があり、行動の偏りが脳の偏りにつながります。職場でデスクワークばかりという人は、3~4回は立って動き回ったり階段を昇り降りしたり、あるいは人と意識的に、普段話題にしないような、感性を刺激するようなことを話す。笑ったり、新しい刺激に触れたりという、一見すると「しょうもないこと」が、大きな意味を持ってくるわけですね。

近年「睡眠マネジメント」という言葉も使われるようになりました。良質な睡眠をとるために、環境を整えようとする考え方です。
人の持つ「体内時計」という機能の中に、睡眠によって子宮に還り、生命活動をニュートラルにするという行動プログラムが存在するのではないかと考えています。
そうすると睡眠環境というのは、子宮へ戻ったかのような安心感、それに近い環境がよい、ということになります。

職業柄、私の研究室にはさまざまな睡眠関係の製品が持ち込まれ、 試験依頼を受けるのですが、データ以上に大事なのは「人の体感」です。
いかに母親の胎内のようなやすらぎがもたらされるか。布団はもちろん、寝間着、音や光・照明など含めて整え、いかに良質な睡眠を誘うかということに、能動的になる意識。それが睡眠の恩恵を最大限に受け取ることにつながるわけですね。
頼れるものがあるなら大いに活用して、その質はぜひ高めるべきです。

眠れないことで悩んでいる人の多くはあまり深刻にならないことが肝要です。
「一睡もできなかった」と本人が思っていても、検査をするとほとんどの人がちゃんと眠れています。
「眠くなればそのうち眠れる」と気楽に考えることが大事です。

夜、1日の体験のすべてに感謝をし、雨風を凌いでくれる家で、横になって布団で眠れることにありがたさを感じながら、子宮へ還るような環境で眠る。そしてまた朝、目が覚めたことに感謝して1日をスタートする。この繰り返しで心身の健康状態はもちろん、人生のすべてがうまく回っていくことでしょう。

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