伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」縄文意識覚醒アート―⑩神奈川沖浪裏―(三)

「神道ことはじめ」コラム

先人たちが残してきたさまざまなアートには、調和と共生の象徴でもある縄文的感性を覚醒させる手がかりがあるようです。そこで世界的にも突出した浮世絵師・葛飾北斎の「富嶽三十六景」を題材に、日本人の精神性を縄文に遡って探究していた岡本太郎の芸術論を交えてご紹介いたします。

吉川さん:尾形光琳の『燕子花図屏風かきつばたずびょうぶ』と『紅白梅流水図屏風こうはくばいりゅうすいずびょうぶ』に描かれた画面を観察し、「ただ何かに撃たれている」と感じた岡本太郎は、続けて次のように論じています。

画面をとおして、ぐんと撃ってくるものにただ圧倒される。強力なデーモン(魔性)の気配です。形態を乗り越えて迫ってくるものだからこそ、なんであるかは知らない。が、なにものかだ。

描いた人自身の姿だろうか。または逆に見るこちらの精神が凝って、そこにうつしだされているのだろうか。じっさいにすぐれた作品に接するとき、だれでもがとりつかれる超自然的なセンセーションです。

いずれにせよ、デモーニッシュな緊迫感こそ芸術の内容であり、装飾の目的をこえて、それは不快でさえある。しかしそれがまた快以上の戦慄的な快なのです。複雑なアンビヴァランスです。ここにたくましい芸術の意味があるのです。

どんな凡人でも、生涯のうちに一度や二度はかならず、おのれ本来の姿を真正面から打ちながめてドキッとすることがあるはずです。そういうことなしには生きがいは考えられません。このような魂の高揚期にこそ、作家はおのれと対決し、それを乗り越えておのれ以上のものとなる。言いかえれば、ほんとうにおのれ自身になりきるのです。これが非情の場です。

(岡本太郎著「三、光琳││非情の伝統」(『日本の伝統』所収))
(波線は編集部による)

つまり岡本太郎は優れた芸術絵画になると接する者に装飾性をこえてデモーニッシュな緊迫感を与え超自然的なセンセーションを巻き起こす力があるとし、そこに真の芸術の意味があるとしているのです。

先に岡本太郎の芸術表現の中核思想には「対極=瞬間=爆発」があったことに触れましたが、石井匠氏は次のように「対極」となるマイナス面に己れ自身の全身全霊を以て徹底的に賭けることで「瞬間」的に「爆発」を生み出し「宇宙=無=絶対」と合一するというのが岡本太郎の人生や生き方(=芸術)の核心となる哲学であり信念でもあったと解釈しています。

爆発おじさんのいう爆発とは、眼には見えない透明な爆発である。全宇宙に己の命と精神がひらき切り、無限に拡大していく。つまり、爆発は自己と宇宙との融合、合一のことなのだった。

 ( 略 )
ロゴスとパトス、正と反、生と死。その対立する二極のマイナス面、つまり、己を滅びに導き、死に直面させる悲劇的なマイナスの「黒い道」に徹底的に己を賭けることで、芸術家の精神は危機的な引き裂かれ状態にさらされる。

ようするに、対極主義とは自分の心を引き裂くことだ、と太郎はいっているのだ。それはある意味、自らすすんで精神が錯乱するような状態に自分の身をおくことを意味している。その身の毛がよだつ恐怖、絶望、悲劇をかかえながら、芸術家は孤独に世界を切りひらき、宇宙を彩らなければならない。それが岡本太郎の哲学であり信念だった。

精神の絶対的な引き裂き。くり返すが、これこそが、芸術家のいのちをスパークさせ、高次元のカオスとの合一を実現させる芸術の方法なのだ。

(謎8 爆発と呪術の秘密「第Ⅳ幕『太陽の塔』の呪力」『謎解き 太陽の塔』より)
(波線は編集部による)

この解釈はまさしくまとを得たものであると思われます。

(次号に続く)


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※2024年4月13日(土)〜5月26日(日)に大阪 ・ 中之島香雪美術館で開催される特別展にて「冨嶽三十六景」全46図(前期・後期で展示替)が公開されます。実物が発する縄文意識覚醒のエネルギーを感じに出かけてみてはいかがでしょうか。 (編集部)
詳しくはこちら▼
https://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/exhibition/hokusaitohiroshige/

今月の北斎 「神奈川沖浪裏」(富嶽三十六景)

出典::「富嶽三十六景《神奈川沖浪裏》」ともに公益財団法人 東京富士美術館収蔵
https://www.fujibi.or.jp/our-collection/profile-of-works.html?work_id=3628

吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
2016年G7伊勢サミットにおいて各国首相の伊勢神宮内宮の御垣内特別参拝を誘導。通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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