神道ことはじめ 特別連載                 縄文文化と神道Vol.2 -漆-

「神道ことはじめ」コラム

神道の起源をたどると行き着く縄文文化。シリーズ2回目の今号では、縄文遺跡から出土した漆工品しつこうひんの数々を通じて、縄文の人々がすでに活用していたとみられる高度な叡智に触れていきます。

吉川さん:縄文文化とは、日本列島における豊かな自然の恵みを背景とした漁労・採集・狩猟を生業とし、あらゆる動植物を活用しながら土器や弓矢等を使用して、本格的な定住生活を営んだわれわれの祖先たちが残した文化群の総称です。

約1万6千年前の縄文土器の出現から約3千年前の灌漑水田耕作が開始されるまでのおよそ1万年以上にも及びます。

この縄文文化の中期には、今から5千年前の青森市の三内丸山遺跡を好例とした直径1メートルの柱材や縄文尺を使用して大型建造物をつくる高度な建築技術があり、またクリ林の管理や漆工などの優秀な植物活用技術が見られます。

そして全国各地には環状列石(ストーンサークル)や土偶、ヒスイやコハクといった威信財や円環的な死生観をあらわす形跡など、現在の神道文化に繋がりをみせる遺物が多数発見されています。

当時使われていた磨製石器や、人為的に破砕された黒曜石で作られた槍の穂先ほこさきや弓矢のやじりを柄に取り付けるのに、接着剤としてアスファルトや漆が利用されています。

とりわけ漆については、接着剤として使われることもさることながら、縄文の人々の暮らしの中では皿や櫛などの工芸品に欠かすことのできない素材であったことは注目に値します。

漆が乾いて硬化すると、衝撃に強く熱気や湿気、酸やアルカリ等の影響が軽減されます。

その上、漆に含有されるウルシオールは食物の腐敗防止や殺菌効果を発揮するのです。

塗料としての漆の伝統的な色合いは黒色と朱色ですが、黒漆は生漆きうるしに酸化鉄や炭の粉あるいはすすを混ぜたもので、朱漆は生漆に弁柄べんがら辰砂しんさを混ぜたものです。

中でも黒漆はわが国特有のものとして評されています。

漆についての古伝承としては、平安末期成立の橘忠兼たちばなのただかね編『以呂波字類抄いろはじるいしょう』)収載の「本朝事始」の項に、古代の英雄・倭武皇子やまとたけるのみこが大和国宇陀の阿貴山で漆の木の汁を家来たちに集めさせ持参の品に塗ったところ黒光りして美しかったことから漆を管理する官吏「漆部ぬりべ」を設けられたことが記述されています。

千有余年の時を超えて伝えられてきた奈良の正倉院宝物や伊勢神宮の遷宮神宝にはたくさんの漆工品が見受けられますが、すでに縄文文化の早期にあたる9千年前の副葬品が北海道函館市の垣ノ島遺跡より出土しており、中国浙江省の河母渡かぼと遺跡出土の7千年前の漆塗りの弓を抜いて、現在世界最古の漆工品となっています。

漆搔うるしか
漆の木に傷をつけ、にじみ出た樹液
を採取する「漆搔き」。黒漆は日本
固有と評されます。

吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
2016年G7伊勢サミットにおいて各国首相の伊勢神宮内宮の御垣内特別参拝を誘導。通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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