神道ことはじめ 特別連載  「縄文文化と神道 Vol.9 -素焼き漆器と縄文象嵌陶器-」

「神道ことはじめ」コラム

縄文文化を紐解くと出合う、数多くの象徴的な装飾や紋様たち。
それらを形づくった精神性は神道を通じて今も息づき、ダイナミックな宇宙観を
指し示しているようです。

吉川さん:現代によみがえる縄文の器として今注目されるのは、「素焼き漆器」と「縄文象嵌ぞうがん陶器」の二つではないかと思っています。

一つ目の素焼き漆器については、縄文時代に使用された器はすべて野焼きによる700〜800℃の低温で焼成した素焼きのもの(カワラケ)だったこと。

そのため後に大陸から輸入された穴窯による1100℃や登り窯による1200℃以上の高温で焼かれた須恵器や陶器に比較すると、ガラス質が表面を覆うことはなく吸水性が強くもろくて壊れやすいのが大きな難点でした。

それを克服すべく縄文前期に創出されたのが土器に漆を塗るという革新的な技術です。

この技術で作られた器を「素焼き漆器(陶胎漆器とも呼ばれる)」といいます。

素焼きの器は却って低温で焼成されるため多孔質となっており、その分漆が浸透しやすくなっています。

そして漆が浸透すると器自体が固くなって強度が高まると共に質感が出て麗しく耐水性に優れ、その上ウルシオールという分泌成分によって器そのものが殺菌効果を発揮するのです。

この漆器がはじめて発掘されたのは福井県鳥浜遺跡で、朱と黒に染められた器の鮮やかさに思わず発掘調査にあたった方は現代のものが混入し出土したのではないか? と一瞬戸惑われつつも、大変驚かれたそうです。

その後完形のものは同時期の山形県押出遺跡から出土し、晩期のものは青森県是川遺跡等から発見されています。

素焼き漆器は土への還元率が非常に高く素材となる器自体が低温焼成のためエネルギー消費率も低く、今環境問題から再評価されています。

二つ目の縄文象嵌陶器とは、栃木県益子焼の人間国宝・島岡達三しまおかたつぞう氏が縄文土器の施文技術を応用し象嵌技術を加味して作陶された器のことです。

島岡氏は昭和14年(1939年)東京工業大学窯業科に入学し芳賀郡益子町の浜田庄司はまだしょうじ(後に人間国宝)氏に師事して益子焼の伝統的な手捻りによる民芸陶器作りを習得しました。

昭和25年(1950年)から同28年まで栃木県窯業指導所に勤務した際に、浜田氏に依頼されていた学校教材の古代土器標本複製作りに参画助成して縄文土器への理解と興味を募らせました

それは島岡氏が幼少期に組紐師の父から学んだ組紐の転がし方によって色々な縄文を施せることを知っていたからだといいます。

島岡氏が開発した縄文象嵌技術による作陶法は、①成形した半乾き状の器面に縄目文様をつけて、その凹んだ部分も含めて器全体に異なる色の化粧土を塗り込めます。

②器が乾燥した後に表面を薄く削ると、凹んだ部分だけ化粧土が残って平面部分は素地の白土となって白い陶器に異なる色の網目が出現するというもの。

その後に器に彩色や釉薬を塗装して焼成すれば縄文象嵌陶器が完成します。

この技術は1960年代には確立し以後島岡氏の作陶における中心的存在となっていきます。

ちなみに縄文土器の器面に施文される縄文として、植物繊維を縄(組紐)状に縒ったもの(=縄文原体)を転がして付けることをはじめて実証したのは日本考古学の泰斗・山内清男やまのうちすがお氏です。

縄文を施す意味については、現在定説や通説は存しませんが、単なる器の滑り止めではないことだけは確かです。

そこで想像をたくましくするならば、日本神話におけるイザナギノミコトとイザナミノミコトの国生みや神生みの場面で両神が国中の御柱の廻りを左廻りや右廻りに廻られますが、そこに万物を創出させたり消滅させたりする回転によるエネルギーが関係しているのかもしれない? と類推していますが如何でしょうか。

島岡達三作「縄文象嵌壺じょうもんぞうがんつぼ」。
イラストは青のコントラストを出
した島岡氏の代表的技法。
イザナキ神とイザナミ神が、天の浮橋に立
ち、海に沼矛を差し下ろすと潮をかき鳴らし
てかき回しました。それを引き上げると、
矛から潮がしたたり落ちて島になりました。
           (古事記より)

吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール

伊勢神宮禰宜・神宮徴古館・農業館館長、式年遷宮記念せんぐう館館長、教学課主任研究員。2016年G7伊勢サミットにおいて各国首相の伊勢神宮内宮の御垣内特別参拝を誘導。通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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