伊勢神宮の吉川竜実さんに学ぶ「神道」     縄文意識覚醒アート―⑤諸人登山―

「神道ことはじめ」コラム

先人たちが残してきたさまざまなアートには、調和と共生の象徴でもある縄文的感性を覚醒させる手がかりがあるようです。そこで世界的にも突出した浮世絵師・葛飾北斎の「富嶽三十六景」を題材に、日本人の精神性を縄文に遡って探究していた岡本太郎の芸術論を交えつつ、内なる「縄文的感性」の覚醒に向けて働きかけてまいりましょう。

吉川さん:ところで、岡本太郎は自著『神秘日本』の中で、京都・高雄山神護寺たかおさんじんごじで根本マンダラ(空海が師・恵果阿闍梨けいかあじゃりにもらい受け、唐から持ち帰ったもの)の江戸末期の写しを鑑賞した経験について触れています。彼の「芸術=呪術(文)」論から、本稿のテーマである北斎や太郎の「縄文意識覚醒アート」の意義や目的について大変参考となる貴重な見解が示されていますので、是非とも掲載しておきたいと思います。

そしてこの掲載文を一読された後、もう一度、太郎のいう「掛けマンダラ」を「縄文意識覚醒アート」に語句変換されて再読してみてください。感性の豊かな読者の方々には、筆者が拙論において主張する意図と、アートを提示する真の意味がきっとご理解いただけるものと確信しております。

掛けマンダラを宇宙と見なして、眺める、この具体的なイメージを観ずることによって、悟りが触発される。つまり宇宙と同化するのだ。些末さまつで相対的な個我から、絶対的大我へ。パティキュラーな属性をつきぬければ、宇宙即自分、おのれ即宇宙なのである。
( 略 )

空海が唐にわたって、恵果阿闍梨から真言密教の秘奥ひおうを伝授されたとき、恵果は「この教えは絵図なしには伝えることができない」といって、数々の優れた絵画を持たせてよこしたと伝えているが、つまり言葉や理屈ではなく、ものを直視させることによって、宇宙の秘密に参与させる。

それが最も直接的であり、近道だと考えたのだろう。掛けマンダラはその手段として非常に優れている。つまり、よき教材なのである。

だから、マンダラは形式化し、図様は固定している。それはいわば、呪文だ。宇宙スケールにおいて、規定する。その限定をとおして、無限に参与する呪術である。従ってそれは、繰り返していうが、芸術や模様ではない。遊びは許されない。その呪文をのむか、のまないか、だけの問題なのである。
( 略 )

マンダラの世界は、従ってオール・オア・ナッシングなのだ。うまかろうが、まずかろうが、そんなことはどうでも構わない。規定されたとおりであること、それが絶対である。

それは戦慄せんりつ的に高貴ではないか。( 略 )己れが他にまったく受け入れられたとすれば、とたんに、己れは他の中に解消してしまう。一部だけ理解されて、他がのこる、ということはあり得ない。オール・オア・ナッシングだ。しかし芸術はオールであると同時にまたナッシングだという、不思議である。( 略 )

優れた芸術には永遠にフレッシュな感動がある。それは永遠に己れをわたさないからだ。その拒否、秘密がなければ、純粋ではあり得ない。秘密即純粋なのだ。つまりそれは見せていると同時に見せないことなのである。

絶対の虚無に徹し、そこから有に転じようとする。卑しい修行、芸、生業ではなく、無条件の象徴的ジェスチュア―。たださし示すこと。 

激しい呪術をこめて、「これだ」と言わなければいけない。それによって、猛烈なエネルギーがふき出し、そこに絵でも、音楽でも、哲学でも、宗教でもない、絶対の何かがあらわれるのである。 

いま私をとり巻き包んでいる色・形・音。その果しない饒舌じょうぜつの、虚と実の重なりあった層。混沌をとおして、ただ一つ、私の心の中に強烈な実感として浮かびあがってくるーそれは、ながながとさし示した一本の腕である。

(岡本太郎著「曼荼羅頌」(岡本太郎の宇  宙Ⅳ『日本の最深部へ』所収))
(筆者サイドライン付す)

眺今月の北斎「諸人登山」(富嶽三十六景)

出典:「富嶽三十六景《諸人登山》公益財団法人 東京富士美術館収蔵

吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール

皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
2016年G7伊勢サミットにおいて各国首相の伊勢神宮内宮の御垣内特別参拝を誘導。通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

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