神道ことはじめ 特別連載  「縄文文化と神道 Vol.8 -火焔型土器?-」

「神道ことはじめ」コラム

縄文文化を紐解くと出合う数多くの象徴的な装飾や紋様たち。それらを形作った精神性は神道を通じて今も息づき、ダイナミックな宇宙観を指し示しているのかもしれません。

吉川さん:縄文中期の器を象徴する馬高式「火焰型かえんがた土器」は新潟県長岡市で近藤篤三郎氏によって発見され、考古学者の中村孝三郎氏が命名したといわれています。

これに対して長野県諏訪市で発見された曽利式「水煙文すいえんもん土器」は考古学者の藤森栄一氏が名付けたとされています。

以前火焰型土器よりインスピレーションを受けて岡本太郎氏が「縄文人は深海を知っていたんだ」といわれたことをご紹介しましたが、この卓越した閃きこそ両者の器を正しく理解するには重要であると感じています。

後ほど火焰型土器という名称には少し疑問を抱かざるをえない理由を述べますが、この器とセットとされる「王冠型土器」や水煙文土器についても、その展開図や作成法からしてもやはり火煙型土器からの派生系であるといわれています。

火焰型土器の名称になぜ疑問を呈するかといいますと①イザナミノミコトは神生みにおいて火の神であるカグツチノミコトをお生みになり亡くなられてしまいますが、これは人の暮らしに火は役立つもののその扱い方を間違えば身を滅ぼしてしまうという啓示ではないでしょうか。

②煮炊きの際にコントロールすべき火を更に燃えさかるような意味を有する表現としてはたして成型するでしょうか?

③薬師寺東塔の水煙や名古屋城天守の金のシャチホコをはじめ全国社寺の殿舎によく用いられる青海波文の飾り金物は「火防」のために装着される等の事由からです。

それでは燃えさかる炎をイメージして火焰型土器は作られたものではないとするならば、どのように各装飾部の突起や施文文様を理解すれば良いのでしょうか。

今のところこの土器の鶏頭冠突起と口縁部の鋸歯状フリルは、葛飾北斎かつしかほくさいが描いた富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」の主題である大小の波のイメージと重なります。

ハート型の窓やトンボメガネ双環と呼ばれる突起は波の飛沫であり、また袋状突起はフジツボ等の貝類と捉えられ、胴体の流文や渦巻文は海流のうねりや渦潮を表現しているものと理解されるのではないかと推測しています。

ちなみにこの大波は北斎の決してデフォルメではなく二つの小さな波をぶつけあい、その角度が120度となった時に大波が発生することをイギリスのオックスフォード大学とエジンバラ大学の共同研究チームが突き止めており、北斎が4000分の1のシャッタースピートでこの一瞬の大波を捉えたこととなります。

このように解するならば火焰型土器の装飾部や文様の影響を受けて、その後の平城京から出土した海人族出身の「隼人の楯」中央に施された渦巻文や上下先端の縁取りの鋸歯文、更には北海道の続縄文文化から擦文さつもん文化を経てのアイヌシリキのモレウ文(ゆるやかな渦巻き文)などが施されたと考えられます。

縄文の人々はどうして火焰型や王冠型、あるいは水煙文のような物の出し入れに不便で使い勝手の悪いダイナミックな意匠をこらした器をわざわざ作ったのでしょうか。

それは名著『海上の道』の柳田国男氏が「海を故郷と観念したこの国の人々、われわれの先祖は、青垣山のとりめぐらす大和に住んでからも、たえず海を懐しみ憧れた。」(『瑞垣』第十九号所収「信仰と民俗」)と述べられたように、縄文の人々もきっと「自分たちの遠い祖先たちは遙か海の彼方からやってきた」という強烈な海への憧れと共に自己のアイデンティティーを表彰するために、これらの器を製作したに違いないと思われてなりません。

そしてこのアイデンティティーにもとづき施文道具には縄だけでなく貝殻を数多く使用したものと思考できるのではないでしょうか。

吉川 よしかわ竜実たつみさんプロフィール
皇學館大学大学院博士前期課程修了後、平成元(1989)年、伊勢神宮に奉職。
2016年G7伊勢サミットにおいて各国首相の伊勢神宮内宮の御垣内特別参拝を誘導。通称“さくらばあちゃん”として活躍されていたが、現役神職として初めて実名で神道を書籍(『神道ことはじめ』)で伝える。

縄文の人々と葛飾北斎はともに鋭い感性で一瞬の
大波を捉え、そのダイナミックな動きを表現した
のではないでしょうか
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